穏やかな午後の日差しにまどろんで、目覚めてみれば靴が無かった。
朝ベッドから降りた時には履いていたのだから脱がされたのだと言うことは理解できたし、それが誰の仕業なのかもすぐに分かった。
降ろした足の裏で柔らかな絨毯の感触を確かめるようにしながら、ユーリはゆっくりと足を動かして部屋を後にする。
すると程なくして正面から浮かんだ靴がこちらへ向かってきた。
「ああユーリ、足が汚れてしまうよ」
「元凶が何を言う」
何も無い空間へ半ば睨みつけるような瞳をやれば、声の主が徐々に現れてそれもそうだねと笑った。
「今度は一体何のつもりだ?」
問いながら近くの部屋へ入ったユーリはそこに置いてあった革張りの肘掛け椅子へ腰を下ろす。
「靴がなければキミはどこへも行けないんじゃないかと思ったんだ」
「…随分幼稚な考えだな」
靴を履かせるよう視線で促してきたユーリの前へ跪いたスマイルは、彼の足を手にして動きを止めた。
「…ねぇユーリ、どこへも行かないと誓って?」
浮かべた笑みにいつものような軽さは無く、それはどこか懇願めいているようにも思えた。
靴なんて新しい物を買えばいいだけだし、束縛するのなら他にもっとやり方があるだろう。それなのにまるでそうする術しか知らぬ子供のように彼は本気だ。
ユーリの瞳に脱がされた黒い靴が映る。
彼を靴泥棒にさせた犯人は紛れも無く自分なのだと思ったら、子供染みた行為に愛さえ覚えてしまったのだから始末に負えたものじゃない。
『犯人』
07/01/21