しとしとと静かに降る雨も三日続けばそろそろ鬱陶しさを覚えずにはいられなくなる。
冗談ではなくカビが生えそうだと思って腕に巻かれた包帯を見ればそこには緑色の何かが付着していたけれど、きっとプラモデルの塗料かなにかだろう。
スマイルは傘を差して歩くことさえ煩わしくなって、ビニール製のそれをするりと手から落として大通りから路地裏へ入った。
いくらか進めば人の姿も消えうせて気分が少しましになる。何度目かの角を曲がった。
猫がいた。
濡れそぼった白銀の毛は薄汚れており、手足は実に細く痩せすぎと言えなくもなかった。
体を小さく丸めて道路へ横たわるその姿をしばらく眺めていたスマイルは、にんまりと笑ってそれを抱き上げた。
「ああ、今日はなんて素晴らしい日だろう」
家へと連れ帰った猫の体を綺麗にしてやり毛布へくるんで、スマイルはまたしばらくそれを眺めていた。
すると猫が目を覚ました。大きな赤い瞳が青い塗装をした透明人間を捉える。
倒れていたもののそれとは思えないほどの強く射抜くような視線に、一瞬忘れた笑いを顔へ戻してスマイルが口を開いた。
危害を加えるつもりがないこと、路地裏で倒れていたこと等を一通り伝えたが、警戒が解けないのか元よりそうなのか鋭い瞳に変化はない。
そこでスマイルがミルクでもご馳走しようと言うと、猫は短く「血が欲しい」とだけ答えた。
それならばと差し出してやった首筋へ噛み付いた白い頭へスマイルが問いかける。
「ねぇキミ、本当は猫なんじゃないの?」
けれど綺麗な声は「吸血鬼だ」と言う。
それでも流れ出る血を舐め取るその行為さえ猫であるが故のようにスマイルは思った。
『雨の中の猫』
06/09/21