いったいどれ程彼の隣で過ごす時間は過ぎただろうか。
繋いだ手の先の透明人間はどこか嬉しそうに歌を口ずさんでいて、伝わってくる彼の温度も声もいつもと変わりはしない。
「ああ見てごらんよユーリ、日が沈む」
途切れた歌声に促され吸血鬼は透明人間の背中から視線を遠い先の空へやった。赤々とした輝きに目を細めて今日を終えようとしている太陽を声も無く見つめる。
「いつもあっという間だね、もう夜がくる」
ユーリにはそっちの方が良いか、そう言って透明人間が笑った。
いつも同じように昇っては沈む、飽きもせず繰り返しそうやって確実に消える光。
眩しいものはいつもそうだ、全て必ず消えてしまう。手の先の彼とて例外では無いだろう、それまで出会った者がそうであったように。
「惜しいと思うのに、何故消えていってしまうのだろう」
繋がった手に力を込めれば透明人間が小さく笑った。
「大丈夫だよユーリ、それでもちゃんと朝は来るもの」
赤く照らされた目の前の笑顔を見つめていられずに吸血鬼は瞳を伏せた。
果たしてこの光を失ってもなお、闇は去ってゆくのだろうか。
同じ光など二度と訪れはしないだろうに。





『夕陽の恋』

06/11/08