遊び相手は誰でも良いという訳でもない。
適度な距離を保ったまま黙することに笑っていられる、どこか自分と似た感覚を持ち得ている者でなければならない。
そうでなければ楽しんではいられないからだ。そして、楽しくなくなってしまえば遊ぶ意味も無くなる。
それまでずっとそうして当たり前のように行ってきたことが、KKはその日突然出来なくなった。
出来なくなるのはいつだって相手の方だったし、そうなればすぐに遊びはお仕舞いにした、後々の面倒を思えばそこに躊躇いなど微塵も無かった。
だから己の身に起こった事実を前に、男はただ肺に満たした煙草の煙を溜め息と共に長く吐き出すことしか出来なかった。
終わりだ、と頭の片隅で声がする。それは自分の声のようでいて、まったく違う誰かのようにも感じられた。
小さなテーブルの上へ置かれた缶ビールを取って、普段よりも多量に摂取しているアルコールを更に喉の奥へ流し込む。
それなのにちっとも酔いは回ってこない。酔いたい時に限って頭は酷く覚めているものだから、再び溜め息を吐き出したい衝動に駆られた。
それを手にした煙草でどうにか誤魔化してから、ようやくテーブルを挟んだ向かいに座る相手へ視線だけを向ける。
生者のものとは思えない程に白く肌理細やかな吸血鬼の頬が、アルコールによってほんのりと色付いていた。
眼球はすぐさま逸れ手近に漂う紫煙を追い、そうして窓の向こうに浮かんだ細い三日月を捉えた。
咥えたフィルターから重い煙を胸一杯に吸い込む。
「…アンタ、俺のものになれよ」
言葉と一緒に吐き出した灰色の煙が何もない空間を走り、徐々に薄まって消えてゆく。
白い華奢な手からテーブルに下ろされた缶の立てる音がやけに大きく聞こえた。
「…お前らしくない冗談だな」
彼が酒に強かったことを思い出したKKはすっかり小さくなった煙草を再び咥えると、喉元まで競り上がっていた後悔を煙に乗せて吐き出して、それきり話を止めにした。





『重たい煙』

09/12/14