例えば始めから一人きりでそのまま終わりまでそうだったとしたならばこんな気持ちにはならなかったのだろう。
らしくないとは思いながらも否定しきれぬその感情にMZDは自嘲気味に笑ってから空を仰いだ。
一人浮かぶ夜空は眩しいくらいの星が出ている。
「MZD」
眼下から飛んできた小さな吸血鬼が名を呼んだ。
寒い地域のさらに上空の気温は恐ろしく低い。幼いユーリの耳や鼻は痛々しいほどに赤く染まっていた。
「下に降りるか」
小さな体を抱き上げれば真っ赤な瞳が間近で見つめてくる。
「何故?散歩をしていたのではないのか?」
MZDが首を左右に振って笑った。
「いいんだ、お前が来てくれたからもうここに居る意味は無くなったんだ」
不思議そうな顔をしているユーリの額へ自分のそれをくっつける。
「ここへなら一人でいくらでも居れたんだけどなぁ…」
小さな光は数限りなく、瞬き照らして包んでくれた。
けれどそれも、一度手にした温もりと柔らかさの前には敵わなかった。
身を寄せ合い瞬いているかのように見えるこの星達も、本当のところは互いに触れることさえ叶わないのだ。
思わずこぼした呟きを紛らわすかのようにMZDが苦笑すると、ユーリの小さな手が冷え切った頬へ両手で触れてきた。
「寂しくなったのか?」
真っ直ぐな言葉で見事に言い当てられたMZDは、驚きに目を見開いてそれからおかしそうに笑った。
戸惑うユーリの唇へキスをして嬉しそうに微笑むと紅い瞳を覗き込む。
「迎えに来てくれてありがとな」
時間はあまりに長すぎて、一人で居るには重過ぎる。
訳が分からず戸惑ったままのユーリだったが、目の前の優しい笑顔に自身の顔にも自然と笑みが浮かんだ。
帰ろう、ユーリが口にした言葉にMZDが頷く。
小さな体をしっかりと抱えたままもう一度だけ星を仰いだMZDは、その眩しさに少しだけ目を細めてから夜空を後にした。
『星星の狭間』
06/10/24