紅茶を飲もうと棚へ置かれた缶を手にすればそれが酷く軽くなっていることに気付いた。
蓋を開ければ底がよく見えるほどの量しか葉が無く、ユーリは肩を落とす。気に入っているものほど無くなるのはあっという間だ。
いつどこで手に入れたものなのか思い出せず眉間にしわを寄せて小さく唸る。が、それも無駄だと気付いてため息を吐いた。
大なり小なり終わりは何事にも付き物だ。
嫌と言うほど分かりきっている事だからこそ、それをどうやり過ごせばいいのかも彼は良く知っている。
ユーリはゴミ箱の上で缶から手を離した。空っぽの缶が立てる音を背で聞きながら再び棚へ並んだ様々な缶を眺める。
諦めほど彼にとって必要で重要な事は無い。
執着が苦しさを生み果ては己の身を滅ぼす要因になる事を知っているからこそ、その動作に迷いは無かった。
しかしユーリはたくさんの缶を前にしばらくその場に立ち尽くすと、ため息を吐いて苦笑に顔を歪めた。
「…自分の事だと言うのに、まったく融通の利かないものだな…」
出しておいた白いカップを再び元の戸棚へ戻すと、吸血鬼はそのまま何も口にすること無く部屋へと戻って行った。
『紅茶』
06/11/05