この手をどうぞお取り下さい、退屈しのぎ程度にはお楽しみいただけるかと思います。
差し出された清潔そうな白い手袋を前にして、吸血鬼は小さく鼻で笑った。
「浮気の誘いにしては随分とへりくだっているな」
いつの世も惚れてしまった方が弱いものですと言ってジズは微笑みを崩さない。ユーリは呆れたように息を一つ吐いた。
「もちろん後腐れの心配も不要です」
少しでも問題が起こりそうになれば迷わず身を引きましょう。そんなジズの言葉にユーリの顔へ笑みが浮かび、ジズの微笑みも深くなる。
華奢な細い腕が伸ばされ、差し出されたジズの手を払った。
「どうせなら見つからぬよう徹し、一生影から愛すことを誓われた方がまだマシだ」
私の相手をするのにお前では役不足だ、そう言って吸血鬼は優美に微笑んだ。
少しの間をおいてから可笑しそうに笑ったジズは出直して参りますと言って、ユーリの少し冷たい手を取り口付けた。





『優雅なる浮気』

06/09/01