毎年城に飾られるクリスマスツリーの上に星の飾りは無い。
何故ならいつも青い男が取ってしまうからだ。自分で飾り立て頂点へ捧げた星を、その手ですぐさま取り上げる。
「可笑しな事をするのだな」
そう問うた吸血鬼へ、レプリカの光を手にした男が実に彼らしい笑みを浮かべてこう言った。
「だってこれ、ユーリみたいでしょう?」
誰の手も届かない場所で独り静かに瞬いている、その姿はとても美しいけれど酷く淋しそうに見えるから、ボクが抱きしめてあげなくちゃいけないんだよ。そんな恥ずかしいことを臆面も無く口にした透明人間は、それから手の中の星へそっと唇を寄せた。
眉根を寄せた吸血鬼は呆れたように息を吐いてから、傍らの色濃い緑を見遣る。ユーリの背より少し高いそれは煌びやかなオーナメントをその身に纏い、年に一度の晴れ舞台を前に浮かれているようにも見えた。
「でも本当は、どうしても一つ忘れられないことがあってさ」
いつの間にかすぐ隣へ立っていたスマイルがユーリの手首を掴んで持ち上げ、その手の中へ星を乗せる。
「キミは覚えている?」
彼に尋ねられる前から記憶を遡っていた吸血鬼は、手の平に転がる金色に目を細めた。
あれはまだ青い透明人間が背の丈も靴のサイズも今よりずっと小さかった頃のことだ。幼い彼の為にと神様がもみの木をプレゼントしてくれたのだけれど、それは随分と大きくて城の玄関ホールの吹き抜けに置かれていた。
その木の頂点に飾られた星へ幼子の腕が伸ばされた理由が現在と同じであったことを、吸血鬼は知らない。
けれど小さな彼にその星は遠すぎた。大きな脚立をもってしても短い指は空を切り、柔らかな体は固い床の上へ真っ逆さまに落ちていった。
「あの時のキミの顔ったら、すごく青ざめて今にも泣きだしてしまうんじゃないかってくらい必死で」
同じ記憶を辿る男の声が嬉しそうに笑う。
幸いにもその時は腕を一本折るだけで済んだからこうして笑うことが出来るのだ、とユーリは眼前の笑みを睨みつける、その頬が少しだけ熱を帯びて色付く様を誤魔化すように。
「ボク、すごくすごく嬉しかったんだよ、キミがあんなにもボクを想ってくれていたんだってことが分かって」
「…生き物は皆、脆いからな」
顔を背けた吸血鬼の白い頬へ男がそっと唇を寄せる、それは先程星へ触れた時のように酷く優しい口付けだった。
「だから宝物なんだ、この星は」
そう言って微笑んだ男に包み込まれるように抱きしめられ、彼の肩越しにプラスチックの星を見る。
希望を意味するこの星がユーリにとってはスマイルなのだということを、彼は知らない。





『ベツレヘムの星』

09/12/18