「恋人に振られて死んでしまう人間もいるんだって。
それが淋しいからなのかは分からないけれど、それでも淋しさが殺せるのは兎だけじゃないとボクは思うんだ。」
ふかふかとした茶色い兎の背中を触っていたら、背後から伸びてきた腕が体に巻きついた。
兎が淋しさに弱いのだと教えてくれた男の声は、いつもより少しだけ弱々しくて、そして甘い。
「…お前も寂しさで死ぬのか?」
「……さぁ、分からない」
吐息で笑った彼の腕に力が入り、体を締め付けられる。
草を食んでいた兎の動きが止まり、それから背を向け駆け出すと、あっという間に姿は見えなくなった。
「…あの兎、欲しかった?」
なんとなく、あれは帰っていったのだろうと思えた。
ユーリは別にと答えてから、空いてしまった片手を上げると、もたれかかった背後の頭の上へ降ろす。
慣れた手付きで撫でてやれば、擦り寄るようにして首筋にキスされた。
「…お前は、兎より早くに死んでしまいそうだな」
背後で吐息が苦笑して、けれど何も言わなかったから、彼に触れた手は当分離せそうにないとユーリは思う。
見なくても分かる青い髪は兎のように柔らかではなかったけれど、ユーリの胸を満たすには十分だった。





『彼と兎の死因について』

08/04/07