足音を立ててリビングへ飛び込んできたスマイルが、大きな声でこう言った。
「雪が降ってるよ!」
「別に珍しくも無いだろう」
北に位置するこの城に暮らしている身で何を今更、そう思いながらユーリは視線だけをそちらへ向ける。
「だって今年の初雪だよ?それにこーんなに積もってるんだよ?」
包帯の巻かれた細長い腕がぴんと伸ばされ、宙に大きな円を描く。
それからねぇねぇとうるさく喚いて腕を引っ張るものだから、ユーリは渋々しおりを挟んだ本を脇へ置きスマイルに連れられ外へ出た。
真っ白な世界は薄暗い中でぼんやりと浮かんで見えた。
「ほら見てこの雪、まるで羽毛みたいじゃない?」
そう言うや駆け出したスマイルは白い大地に足跡を増やしながらくるくる回って頭上を仰ぎ、そのままぱたりと倒れこむ。
そうして可笑しそうに笑ってから、食べてやると宣言して舌を空へ伸ばした。
やっていることは、彼がまだ幼かった頃と大して変わらない。
雪が降るたびはしゃぎまわった小さな姿が、ユーリの脳裏で目の前の姿と重なり合う。
「…まったく、お前は何時まで経っても変わらんな」
ため息まじりに吐き出された呟きに、スマイルは起き上がるとユーリへしかめた顔を向けた。
「キミに言われたくないなぁ」
すっかり大人びた顔立ちは、すぐさま無邪気そのものに笑う。
「私を引き合いに出すな」
呆れた声を上げたユーリが、もう一度真っ白なため息を吐き出した。
「何時迄もお守りをする羽目になるとはな…」
嫌味と分かるように言ってやって、唇を尖らせた青い顔を笑ってやる。
変わることを許されない吸血鬼は、変わらないその笑顔にどこかで救われていることを、本当は知っていたのだけれど。
『変わらないでなんて言えない』
08/02/04