ユーリが長い眠りへ落ちている間に現れた猫は、実に奇妙だった。
いつの間にか城へ住み着いたその白猫は必ずベッドやソファーの上で眠り、赤ワインを好んで舐め、食事の魚は新鮮なものでなければ決して口にしない。
何より、ふらりとどこかへ行ってしまいそうに見えるくせに、気付けばすぐ傍に居る。
「ねぇキミ、もしかしてユーリなんじゃないの?」
正面から覗き込んだ大きな瞳は深紅だったけれど美しい縦長の瞳孔が猫であることを主張しており、目の前の青い顔なんか興味が無いと言いたげに逸らされると大きな欠伸を一つして、それから瞼の裏に隠れてしまった。
問いの答えが何でも構わないスマイルは丸くなった猫の体にそっと寄り添うと、自身もまた目元を緩めてそのまま瞼を閉じた。
そうして再び開いた視界に映ったものは、最早猫ではなくなっていた。
「いつの間にココに居たの?」
吸血鬼の丸い頭を撫でてやると、眠たそうに蕩けた瞳が見上げてくる。
「…不思議な夢を見た」
まだ夢から覚めきってはいない紅い瞳の縦長の瞳孔を見詰めて、スマイルは嬉しそうに微笑む。
「その夢なら、きっとボクも知ってるよ」





『猫の目』

10/02/22