これだから雨は好きじゃない。
「ごめんね、ユーリ」
受話器越しに聞こえるスマイルの声を聞きながら、ユーリは大きなため息を吐いた。
日が暮れてから降り始めた雨は落雷を伴うほどの酷さで、それは電車を止め、それに乗って帰ろうとしていたスマイルの足も止めた。
「ボクにも羽があったらなぁ。そしたらすぐにキミの所へ帰れるし、キミと一緒に手を繋いで空を飛ぶこともできるのに」
どこか子供じみた夢想が彼らしいと思いながら、ユーリは苦笑交じりに小さく笑った。
それから、さらに広がりを見せるスマイルの空想話を耳にしつつ真っ暗な窓の外へと目を向ける。
今夜はもう帰ってこれないだろうと思えば、視界さえも暗くなるような気がした。
「…スマイル、そろそろ電話を切っても良いのだぞ?」
帰れないことを気にしてか、スマイルが携帯電話からよこしたこの通話は、かれこれ数時間続いている。
「そんなこと言っちゃって、本当に切っちゃったら寂しくて泣いちゃうんじゃない?」
茶化すような彼の声音に、ユーリは鼻で笑ってやる。
「それはお前の方だろう」
するとスマイルが笑ったままの声で、うん、泣いちゃうと答えた。
「ならば歩いてでも帰って来い」
冗談めかしてはいたものの、思わず吐き出した自分の言葉にユーリは自嘲的な笑みを浮かべる。
するとスマイルが声を上げて笑った。
「キミはほんとに厳しいなぁ。…ああでももう泣く必要はないよユーリ、お城が見えてきた」
眉をしかめ訝しげな声を上げたユーリは、少しの間を置いた後受話器を手から落として駆け出した。
そうして玄関を勢いよく飛び出るとしばらく進んだ先で見慣れた姿を見つけた。
「…まさか本当に歩いて帰って来るとは…とんだ寂しがりやだな」
少し高慢的に笑んでそう言ってやれば、スマイルはにっこりと笑う。
「うん、でもキミもボクと同じくらい寂しがりやでしょう?」
すぐ傍になった青い顔に手を伸ばせば、長細い腕がユーリの身体を包み込んだ。





『寂しがりや』

07/06/12