「それにしても車の通らない道だね」
日付変更線を跨ぐか跨がないかぐらいの時間に、大通りというには少し細い車道脇の歩道を二匹の妖怪が歩いていた。
白いガードレールを乗り越えて路上へ出た透明人間が中央の線の上へ横たわる。
「ねぇ、このままボクが透明になってここへ寝ていたら、きっと車はなんにも気づかずにボクを轢いて行ってしまうんだろうね」
足を止めた吸血鬼は抑揚のない声でそうだな、と短い相槌を返した。
「そのときボクからあふれ出る血は赤いのかな、それともやっぱり透明なのかな」
吸血鬼はくだらないと口にしたけれどそれに返される言葉はなかった。
おもむろにユーリもガードレールを飛び越えてスマイルの隣へと横たわる。
「黒い服を着ている私も気づかれぬと思うか?」
スマイルが小さくふき出して笑った。
「ユーリはこんなことじゃ死ねないよ」
それからふいに目をやれば隣の吸血鬼が手を胸の上へ組んで瞳を閉じた、まるで柩に入ったときのような姿をしていたので、スマイルは体を起こすと組まれていた手をほどくように自分の手とつないだ。
「ねぇ、服が汚れる」
つないだ手を引けばユーリが目を開けてスマイルへ僅かに微笑んだ。
「ああ、そうだな、もう帰ろう」
体を起こした二人はつないだ手をそのままにして車道の真ん中を歩いていった。
車はまだ通らない。





『死体ごっこ』

06/09/26