「ボクは透明だから、誰かがいなくちゃボクの存在が証明できない気がするんだ」
膝を抱えて小さくなったスマイルがぽつりと呟いた。
窓の外には全てを飲み込むような闇があって、次は自分を飲み込もうと待ち構えているような気がしていた。
いや、本当はもう既に飲まれてしまっているのかもしれない。だって姿を消している自分は己の瞳でさえ捉えることが出来ていないのだから。
すると背後で笑う息遣いが聞こえた。座ったソファーの背を挟んで立つ吸血鬼のものだ。
「そんなもの全て同じだろう。残したものさえ見つける誰かが居なければ、ただ独り朽ちて消えるだけだ」
静まり返った夜の中で、その声は酷く凛として聞こえた。
永遠に死ぬことは無い美しい彼でも自分と同じような不安を思うことがあるのだろうか。
伏せていた顔を上げたスマイルは振り返ってユーリを見上げた。
「それってつまり、ボクにはキミが必要で、キミにもボクが必要だってこと?」
返ってくる言葉は無かったけれど、伸ばされた彼の細い手が闇と同じ色をしているはずの頭へ触れたから、それが答えなのだろうとスマイルは思った。





『存在証明』

06/12/21