「ねぇ、死にたがっている人の手伝いをしてあげても罪になってしまうんだって、キミは知っていた?」
体中から全てが抜け落ちて、横たわるベッドのずっと奥深くへと沈み込んでいくような気がする。
それでもスマイルは笑みを浮かべ続けた。
末端から冷えていく体とそれとは裏腹に酷く熱くなった腕とが、とても奇妙で可笑しい。
「どうしてだろうね?困っている人を助けてあげるのは良いことでしょう?」
全身を震わす程の痛みと気持ち悪さを紛らわすかのように唇ばかりがよく動く。
「ああだけど、ボクはキミのためならどれ程の罪を幾ら被ったってちっとも構わないよ」
眼球だけを動かして左下の方を見ると、真っ白な顔をしたユーリがだくだくと鮮血を零すスマイルの左腕を抱えるようにして、傷口の上の辺りをシーツの切れ端できつく縛りあげていた。
血よりも尚紅い瞳が何時になく真剣さを宿していて、そのあまりの美しさに思わずスマイルは見惚れて言葉を失くす。
するとユーリの形の良い唇がおもむろに動いた。
「私はお前の為に罪を被るだなんて真っ平御免だ」
左腕を割いたナイフよりもずっと切れ味の良いだろう、そんな刃みたいな声だった。
それから深紅の瞳が透明人間の片方だけの瞳を射抜くように見る。
「だから、死ぬだなんて赦さない」
濡れたように光って揺れるそれはガラス玉のように容易く壊れてしまいそうに見えたから、スマイルはすぐにでも空いていた右の手で彼の頬を撫でてやりたいと思ったけれど、腕は途方も無い程に重たくなってしまっていたからそれは叶わなかった。





『途方も無く重い腕』

08/12/17